本、映画、演劇、美術、テレビドラマにラジオといろんな文化に触れたい好奇心。 コカコーラ片手にぱーぱーお喋りしています。しばらくおつきあいのほど願ってまいります。

AM1:00-3:00

茅ヶ崎のゆとりがコカコーラ片手にラジオのような独り語り

桜桃忌

 

どうもこんばんは。

 

中学生の夏、初めて太宰治を手に取った。数ページ読んで閉じた。何が何だかわからない。彼は何に失格したのだろうか。

 

高3の夏。2年付き合った彼女と別れた。人生100年の2年ならば、さほどでもないが、高校生活3年の2年は大きい。私はすがるものが欲しかった。

予備校をサボって入った市役所通りのTSUTAYA。たまたま目に入る太宰治。手に取ってレジに行く。彼女との夏祭りで使うはずだったお小遣いはもう用無しだ。これで傑作選を買う。最初のページをめくると、いつか挫折した「人間失格」がページの中央に黒々と印刷されていた。

当時の私がすがるには物を知らない若さも手伝って格好の杭だった。青春の傷を麻痺させるには麻酔が効きすぎるほどの特効薬だった。

 

それ以来、太宰の全集を求めて、読み漁った。代表作から初めて聞く短編まで、全部読むのに1年はかからなかった。

人間失格」「斜陽」の太宰は陰気で根暗だが、「トカトントン」の太宰はちょっとユーモラスでかわいらしかった。色々読んでいくと、太宰ってなんだか思っていた人間じゃない。基本は照れ屋で、恐る恐る冗談を言う。「大丈夫、面白いセンスだから自信をお持ちよ」と励ましたくなる。かと思えば、登場人物に任せて批評家や世間にものを申す。そんな時には結構大胆な事を言う太宰だ。


そんな太宰が生まれてから今年が110年目。

今日は、といっても日付が変わってしまったから昨日だ、愛人と三鷹玉川上水に入水した太宰が見つかった日。ファンは今日を作品名にちなんで「桜桃忌」と語る。きしくも誕生日だった。

10人の愛人と手を切っている最中の田島を朝日新聞の紙面に残して、グッドバイした。

 

桜桃忌には極力、三鷹禅林寺で太宰の菩提を弔う。

帰り道には玉川上水をちょっとぐるっと回って駅に向かう。眩しいくらいの日差しを懸命に反射する水面とその脇の紫陽花から強い生命力を感じる。その生命力に対峙するように、でも、同時に感じさせる川の流れの穏やかさ。こんな優しい川で人が死ねるものだろうか。優しい川だからこそ、太宰は死ねたのか。

 

太宰はいい季節に死んだ。

その季節は、ひとりの気弱な男が時には酒に逃げ、時には女に逃げながら、ひっそりと世間と戦った奮闘記を読むにはいい季節だ。

 

では、こりゃまた失礼いたしました。