本、映画、演劇、美術、テレビドラマにラジオといろんな文化に触れたい好奇心。 コカコーラ片手にぱーぱーお喋りしています。しばらくおつきあいのほど願ってまいります。

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茅ヶ崎のゆとりがコカコーラ片手にラジオのような独り語り

NHKドラマ 「星新一の不思議な不思議な短編ドラマ」「空白を満たしなさい」

 

どうもこんにちは。

 

今週からNHKの夜の深い時間帯に、15分枠で星新一を原作としたドラマをシリーズでやっている。

 

リアルタイムでは観ないので、録画したものをちょっとづつ観ていく。これ書いている今で、第三夜の林遣都さんが主演の「不眠症」まで見終えている。

第一夜は水原希子さんを主演に「ボッコちゃん」を、第二夜は瑛太さんが主演の「生活維持省」と、どれも星新一の名刺がわりの傑作が並んでいる。キャストの顔ぶれを見てもワクワクしかない。過去に何度も映像化されてきた星新一作品をなぜ今さらという気がしなくもないが、小学生の頃に魅了された星ワールドの映像化は、ファンとして楽しみでしかない。

星新一というと、皮肉っぽいものや現代文明批判めいたものからとんちの効いたものに、ちょっと寂しいセンチメンタルな作品までたった数ページで目が回るほどの短くて広い世界を楽しませてくれる。この短さなら自分も書けるだろうと舐めてかかって、とんでもなく恐ろしいことを考えていたことに申し訳なさを覚えたものだ。

コンパクトでいて、フリオチの効いた構成があって、それでいて独特の世界観を持っているショートショートは今回のような15分枠のシーリズものや「世にも奇妙な物語」などに尺的にもちょうど良いらしく、何度も映像化されているものを見かける。それ他にもアニメーションを勉強している学生さんが卒業制作の原作として扱ったりしているのをYouTubeでよく見る。あとは落語の小噺の原案として使ったりもされている。確か、小三治師匠が語っていうのを聞いたことがある。

 

しかし、こう何度も映像化されている星新一作品だが、どれも演出の仕方が似たり寄ったりな気がしてならない。星新一が扱うテーマがSFを中心とした近未来的であるせいか、またはどこかつかみどころのないような、我関せずのような語りの文体のせいか、星作品が映像化されるとき、常に画の中に不穏な空気感を忍ばせて、観ているものに絶対に安心させないような演出が多い。映像の中で奇妙なほどに響く靴音、サックスが鳴らす不協和音、急に超えるイマジナリーライン、アンバランスなフレーミング、など過去の星新一原作作品を見ても、あの世界観を再現するための演出が一辺倒な気がしまう。

もちろん、こういった演出があのなんとも言えない文体を再現するのに一番最適なのだろうから、原作ファンとしては何もいうことはあるまい。

しかし、役者を変えて、セリフや脚色を多少変えたとて、同じ原作を同じ演出で撮っていては、ほとんど焼き増しと変わらないのではないかと思ってしまっている星新一ファンとは別のドラマファンの私がいる。

 

今回のシリーズも星新一作品の空気感の再現という点では、薄気味悪いような、どこか不安が付きまとう、現実離れした雰囲気は緊張感が途切れることなく15分間楽しめた。しかし、そこに新しさはなく、世にも奇妙な物語の差し替えとほとんど変わりがない。

新しければいいのか、といえば、必ずしもそうではないが、かと言ってただの焼き増しが量産されるのも良しとは言えない。

星新一ファンとして、ドラマファンとして、私の中で賛否が起きている。

 

同じくNHKで、私の好きな作家、平野啓一郎さんを原作とする「空白を満たしなさい」がドラマ化されている。

自殺した主人公が生き返り、自分の死と向き合う物語。そこに絡まる平野さんの「分人主義」という思想。

原作は文庫本で上下巻あり、45分を5回でドラマ化するには少し内容が複雑ではないかと思っていた。平野作品でも映像化が難しい作品だと思っていた。

それは作品の中心が非常に抽象的な思想であるからだ。原作では、この思想に誤謬がないように非常に丁寧にいろんなエピソードを重ねて、いろんな立場を示してある。上下巻の2冊は単に長いだけではなく、原作者の思想を誤解なく伝えよう、という誠意の長さなのだ。しかし、全てのエピソードや登場人物を映像化してしまうと、ドラマの流れとして中だるみが出来てしまう。

 

削ったエピソードや登場人物の補完をどうやって進めていくのか、今後、脚本家の腕が試される。

雰囲気だけを作ったり、ミステリーに仕立て直したりして、分人主義が蔑ろにされる作品だけは見たくない。

 

自分の中に閾下でいくつかの人格を作り出し、一緒にいる人間に合わせる。

そのいくつかの人格同士がぶつかり合い、行き場がなくなって、自分の意図しない自殺で命を落とす。

全ては愛する人と共にある自分の人格を守るため、そのために屋上から飛び降りる。

 

物語が進むつれて、私の中に渦巻くわだかまりがこの作品の醍醐味であり、その享受に分人主義の理解は欠かせない。

 

7月クールのドラマも始まったというのに、NHKのドラマまで見だしたらキリがないのだけれどね。

 

では、こりゃまた失礼いたしました。