夏の柔肌に…
夏は夜
月の頃はさらなり
教科書で一度は覚えさせられた日本の名文『枕草子』の一節。
書いたのは清少納言さん。
私はこれを読んで、本当に肌の感じ方は人それぞれだな、なんて思ったね。
だって私は夏は明け方だもの。
寝苦しい夏の夜は真っ暗でジメッとした目に見えない膜に巻きつかれてうなされるほどに苦しい。
でも、太陽が昇り切る前のほんの数時間、明け方だけは肌に当たる風がサラリと心地よく、透明度の高い水色の空の広がりに清々しくなる。
一年を通して四季がはっきりしている日本の中でも夏の明け方が一番私の肌に合う。
しかもこの夏は海辺に近くに越してきていつでも海に行けるという贅沢さ。
海を眺めるのも明け方の海が一番心地いい。
深夜の海は空と海との境界線がたゆたっていてずっと先の闇に紛れてぼんやりとしている。
それが日が昇るのと同時に少しずつ姿を現し、その線を沿うように点のように小さな漁船がゆったり行く。
幻想的でない生活感のある風景が安心する。
一番好きな夏の明け方に、一番好きな明け方の海に行く。
それでこの先の生き方を考えたいな。
そのためにあてもない引越しをしたんだからね。
なんか面白いことがしたいという漠然としたものだけがある子供で、でも、それを求めるだけで生きていくのは難しいなんてことは分かるくらいには大人な中途半端さ。
周りのみんなはどうやって折り合いをつけているんだろう。
こういう夜は私は太宰を読むのよ。
彼の作品は意外とシニカルな笑いがあってユーモラスなんだよね。
私は『トカトントン』という作品がオススメです。
ところで、このタイトルの「柔肌」なんて一体どこに出てきたんだ(笑)
では、これまた失礼いたしました。